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 しら刃もてわれにせまりしけはしさの消えゆく人をあはれと思ふ

(与謝野晶子『佐保姫』(1909)。かつて必死の形相で女に迫ったあの男から、しだいに峻厳な気配が消えてゆく。世事に追われる故か、年齢の故か。その喪失に、もはや作者は同情しない。)

 女にて生まざることも罪の如し秘かにものの種乾く季

(富小路禎子『未明のしらべ』(1956)。「季」は「とき」と読ませる。自分の身体が抱える「種」をかえすことなく年齢を重ねていることが、まるで罪であるかのようだと。もちろん単なる自省や悔恨ではないが、世を怨む声からも作者は距離を置いている。)

 さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり

(馬場あき子『桜花伝承』(1977)。年々歳々、咲いて散ってを繰り返す桜の幹を流れる水の音が、自らの身体の奥にも響いているのを聞きとった。この歌集を刊行したとき作者は49歳。)

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