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  • 2024年10月29日

この作り手は、新作が成功でも失敗でも見ねばならない作家の1人。


前作までは一般に「ドキュメンタリー」に分類される作品を撮ってきた監督だけど、今回は俳優が影のように依代に立って、地中世界と生身の人間との、かかわりの記憶をさぐってゆく。地中の岩肌にこまかな光の網の目が投影され、そこへ若い女があらわれて手の影をかかげる。女はさらに森の中で樹皮に身体をさらし、洞窟にちらばる人骨の破片を手に取る。こうした、土・樹との光と影を通じた交流を重ねながら、女は自身の身体をもって地中の物語を語り直そうとする。


20世紀初頭のモダニスム映画のような世界。しかしあるところで沖縄戦の〈ガマ〉の語り部が現れ、実際に沖縄の洞穴で起きた事件を語りはじめる。女が媒介していた土と人の物語は、さらに「歴史」を組み込んで複雑さを増す…。映画言語の拡張をもくろむこういう作風には、米国流の映画分析は役に立たない。


Underground (2024) dir. Oda Kaori 小田香『アンダーグラウンド』公式サイト


サウンドデザインには感想が分かれるのでは。確かに複雑な音環境の網の目をつくるべく組み立てられているけれども、これはサウンドデザインというよりも抽象的な映画音楽。


そして無生命の岩石・自然と人間の対比を際立たせるなら、女の肢体がさらに強調される必要があった気もする。




  • 2024年10月19日

ニューヨークからの帰りの飛行機で。



いちばん強いショットは空っぽの体育館で少女が秘密を明かす場面あたり? でもこれもそうだし、他にも新緑の小径を歩く二人の少女・湘南の海辺で言葉をかわす作家と少女…と、映画的場面になるはずのシーンのことごとくで、編集がまずく演出の感覚が俗。すぐれたカメラをまったく活かしそこなっているのが残念。


〈漫画は線とことばの位置・タイミングで論理をつくっていて、台詞をそのまま脚本化しても映画としては絶対成立しない〉ことの好例。とくに小説家の女の演技・演出は説得力を欠いたと思う。


それと対照的に早瀬憩さんの存在感はおそるべし。

  • 2024年10月14日

イーストヴィレッジのシアーシャ・ローナンの新作 'The Outrun'。生物学でPhD取得を目指す娘が若年性アルコール中毒に悩み、黒人青年との恋を諦めて、故郷スコットランドの酷薄な海辺で生の回復をめざす。


スコットランドといっても北の外れも外れ、オークニー諸島。そこの静かな海、荒れ狂う嵐、好奇心旺盛なオットセイ…を舞台にした再生の物語。


…と、やたらもりだくさんの話を終始シャッフルしつづけるような編集にはちょっと閉口。シアーシャ・ローナンの演技が見事なのは確か。NYTは不作の年の反動かちょっと褒めすぎだね。





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