All the Beauty and the Bloodshed (2022)
写真家ナン・ゴールディンは「ニューヨーク」という場所の華やかさと汚濁を一身に体現する伝説的アーティストで、DVやレイプ・性産業での経験にいたる自分の壮絶な生き方を目をそらさず見つめる美しい写真作品で知られてきた。
その彼女が、巨大薬メーカーの薬害事件にまきこまれる。その薬を作ったアメリカの大富豪サックラー家は、世界中の美術館・博物館への莫大な寄付を通じて美術界でも圧倒的な存在感をもっていた。ゴールディンは、寄付を受け続ける美術館とこの一家を相手に、裁きを受けさせるたたかいを始める…。
1970年代からニューヨークのアンダーグラウンド文化の代表的存在として知られてきたナン・ゴールディンと、メトロポリタンやグッゲンハイムといった名だたる巨大美術館との全面対決。その記録としてもスリリングだし、そこにからむゴールディンの生涯は、息をのむほど壮絶。そして彼女たちの抗議は始め嘲笑されていたが、ついにメトロポリタンほか美術館側は非をみとめてサックラー家の名前を館内から撤去、裁判の場でサックラー家の代表と対面することになる。
「ニューヨーク」という街を舞台にしたドキュメンタリー映画の傑作で、「すべての美しい者、そして血を流し続ける者たち」という題名のとおり、痛ましくて美しい物語です。2022年秋のニューヨーク映画祭では、満場のスタンディング・オベーションでした。
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