The Wind that Shakes the Barley (2006) dir. Ken Loach
アイルランドを舞台に、独立戦争とその後の内戦を生きる兄弟二人の話で、近現代アイルランドを描いた作品としては『マイケル・コリンズ』などと並んでとくに有名な映画の一つ。
1920年、ダミアンとテッドのドノヴァン兄弟はアイルランド南部の田舎町に暮らしている。当時アイルランドの人々は英軍から厳しい弾圧を受け、粗暴な英軍兵士の暴力がつねに暮らしを脅かしていた。
すでに兄テッドはアイルランド独立を求めるIRA(アイルランド共和軍)に身を投じて頭角を現し始めていたが、優秀な弟ダミアンは医師となり、ロンドンの病院で勤務するため町を出ることになっていた。しかし駅で英軍兵士による理不尽な暴行を目の当たりにして深く憤り、ついに兄のもとでゲリラ戦へ身を投じることを決意する。
アイルランド独立の理想に燃える二人の兄弟は暗殺もためらわない過激な反英テロ活動を展開して英軍を翻弄するが、イギリス政府代表団との間でアイルランドに自治を認める英愛条約が調印されると、闘争路線をめぐって兄弟の間で鋭い対立が生じ始める。
監督のケン・ローチは1960年代からキャリアを開始していたが、名作『ケス』(1969) のようなわずかな例外をのぞいて、TVドラマを中心に活躍していた。『麦の穂』は今にいたるまでケン・ローチの最も興行的に成功した映画作品だと思う。
技術的には、『ブラック・ジャック』(1979)などの時代劇でみせた、外光をうまく活用した照明をさらに洗練させているのが目をひく。全編をつうじてほとんど一つの晴天・青空もなく、室内では窓から入ってくる弱い光を主に使って撮影し、それが「アイルランド」という土地の抱える貧しさ・苦境を印象づけるよう意図的に設計されている。
この作品はよく「戦争映画」にカウントされるが、戦闘シーンがどこかひややかなのは、それがおおむねワイドサイズで撮影されていることが大きい。この映画では、兵士や市民がまさに一面に生い茂る麦の穂の中で無意味に死んでゆく。人の生死が冷淡につきはなされて、歴史の流れの一部として捉えられている。
ケン・ローチは活動歴が長いので、作品レビューの類は膨大。2000年代以降、まとまった研究がいくつか刊行されるようになった。
Fuller, Graham ed. Loach on Loach, London : Faber and Faber, 1998.(グレアム・フラー編『ケン・ローチ : 映画作家が自身を語る』村山匡一郎・越後谷文博訳、フィルムアート社、2000)
Hayward, Anthony. Which side are you on? : Ken Loach and his films, London : Bloomsbury, 2004.
Hill, John. Ken Loach: the Politics of Film and Television, Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2011.
Leigh, Jacob. The cinema of Ken Loach : art in the service of the people, New York : Wallflower Press, 2002.
McKnight, George ed. Agent of challenge and defiance : the films of Ken Loach, Westport, Conn : Greenwood Press, 1997.
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