俳優のブロッキングと編集でリズムを生み出して、それが文体として独立しているので、物語に依存しない、映画固有の形式があざやかに構築されている。 すばらしい才能で、濱口竜介さんに匹敵する新しい監督がこれほどすぐに登場するとは、まったく予想できなかった。
Desert of Namibia (2024) Yamanaka Yoko(山中瑶子『ナミビアの砂漠』)
ナラティブの回収をこころみる終盤の展開は意見が分かれるはずだけど、通俗への転落をぎりぎり回避してはいるかもしれない。 〈登場人物の狂気〉は要するに形をかえた夢オチにすぎないので、説得的に回収するのはもともと至難の業。ここは脚本上の瑕瑾。
主演の河合さんはたいへん見事。ひそひそっと口先で話す、勢いに乏しい今の日本語の発声にここまでリアリティを与えた例って他にあまり思い当たらない。 もっとも他の俳優がそれほどでもないのは、濱口式の独自の演技指導メソッドがあったわけではなく、属人的な化学反応のゆえなんだろうか。
近年の日本映画として文句なく最高の成果のひとつだけど、宣伝はちょっと的外れ気味。これは凡庸すぎる「都会の隅で格闘する若い女」物語ではなく、『PERFECT DAYS』や『パラサイト』のように映画としての形式面の完成をこそ見なければ。
‘Desert of Namibia’ Review: A Meandering Chronicle of a Listless Japanese Zoomer (Variety, May 27, 2024)