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  • 2024年10月27日

今の日本映画らしからぬすぐれたショットは数多くて、その感覚も技術も新人離れしているのは確か。夜の電車と併走する生徒たち、半透明の暖簾をはさんで向かい合う母親と少年、地震で鳴りひびく緊急音と息をひそめる定食屋の人々、などなど。これだけの国際共同製作を完成に導いた点でも希有な例。



一方で「脚本が甘い」という宿痾からも逃れられていない。外国人差別や監視社会化は現代日本にとってリアルな問題であって、それを近未来SFなどで都合よく改変することの意味に、もっと骨身に沁みて対決せねばならなかった。誰もが知っている課題をしっかり考え抜いて、作り手ならではの洞察に少しでも到達せねばならなかった。それがないから、中盤以降、どことなく文科省の啓発映画じみてくる。


少年ふたりの動機・葛藤も曖昧で、友情も政治も思わせぶりなまま。憲法改正や緊急事態法制がテーマとして出されたのに、高校生が校長と直談判して意見を通してラッキー!で何となく終わってしまう。


登場人物がなまなましい政治課題の中を動き回るこういう物語は、戦後すぐの日本映画では全然めずらしくなかった…というか、それが積極的に奨励されていた。日教組がテーマになる山本薩夫『人間の壁』(1959) 、もちろん京大滝川事件をあつかう黒澤明の『わが青春に悔なし』(1946)もそう。これらの映画と見比べると空監督の社会・政治への向き合いかたは、やはりいささか甘いというほかない。


それでも映像作家としての才は明らかで、いろんな歯車がうまく噛み合えば素晴らしい作り手が登場するだろうとも思う。濱口竜介監督が寄せた「未来への予感を抱かせる出発点」なるコメントは、そのあたりの正直な評価と社交を両立させた表現なのだ。




  • 2024年10月19日

ニューヨークからの帰りの飛行機で。



いちばん強いショットは空っぽの体育館で少女が秘密を明かす場面あたり? でもこれもそうだし、他にも新緑の小径を歩く二人の少女・湘南の海辺で言葉をかわす作家と少女…と、映画的場面になるはずのシーンのことごとくで、編集がまずく演出の感覚が俗。すぐれたカメラをまったく活かしそこなっているのが残念。


〈漫画は線とことばの位置・タイミングで論理をつくっていて、台詞をそのまま脚本化しても映画としては絶対成立しない〉ことの好例。とくに小説家の女の演技・演出は説得力を欠いたと思う。


それと対照的に早瀬憩さんの存在感はおそるべし。

  • 2024年10月14日

イーストヴィレッジのシアーシャ・ローナンの新作 'The Outrun'。生物学でPhD取得を目指す娘が若年性アルコール中毒に悩み、黒人青年との恋を諦めて、故郷スコットランドの酷薄な海辺で生の回復をめざす。


スコットランドといっても北の外れも外れ、オークニー諸島。そこの静かな海、荒れ狂う嵐、好奇心旺盛なオットセイ…を舞台にした再生の物語。


…と、やたらもりだくさんの話を終始シャッフルしつづけるような編集にはちょっと閉口。シアーシャ・ローナンの演技が見事なのは確か。NYTは不作の年の反動かちょっと褒めすぎだね。





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