無目的な暴力から大規模な自然災害・環境破壊に至るまで、これほど世に悲惨が充ち満ちた時代に「美」について語ることは、どこか場違いで、不適切で、醜悪なほどおそれを知らぬふるまいなのかもしれない。
しかし、一方の極に悪があるならば、もう一方の極に美が位置するのもまた、われわれが向かい合うこの現実である。生けるものどもの二つの究極的な姿、すなわち一つには悪、また一つには美、この二つの内実を探求することは、まさに現在のわれわれにとっての課題であり、この先も永遠に課題でありつづけるだろうと私は思う。
François Cheng, Cinq méditations sur la beauté, Albin Michel, 2006, p. 13.